リード:
「胃食道逆流症を患う高齢の入院患者において、経管栄養の不耐性が病院経営に与える経済的損失に関する分析」(Economic consequences when enteral tube feeding intolerance causes unplanned discontinuation in hospitalized older patients with gastroesophageal reflux disease)というタイトルの論文が、栄養学分野の国際誌『Clinical Nutrition ESPEN』(IF: 2.6 CiteScore: 5.3)に掲載されました。
本研究は、ネスレ日本株式会社 ネスレ ヘルスサイエンス カンパニーの鎌田征和氏を筆頭著者とし、医療法人錦秀会 阪和第二泉北病院の岡本千聡医師、同病院 栄養士一同、阪和記念病院 北風政史医師、東京大学 五十嵐中准教授らによる共同研究として実施されました 。本研究により、高齢の胃食道逆流症(GERD)患者における経管栄養不耐性(ETFI)による不測の中断が、病院経営に多大な経済的負担をもたらす構造が明らかとなりました 。
背景:超高齢社会において、経管栄養を必要とする高齢者は増加していますが、GERDを合併する患者では嘔吐や胃排出遅延などの「経管栄養不耐性(ETFI)」が発生しやすく、栄養管理の継続が課題となっています。これまでETFIの臨床的な影響は報告されてきましたが、日本の診療報酬制度(包括払いと出来高払いのハイブリッド方式)において、ETFIによる中断が病院経営にどのような経済的影響を与えるかは不明でした。そこで研究グループは、療養病棟のリアルワールドデータに基づき、ETFIに伴う医療資源の配分変化と病院収益への影響を詳細に分析しました。
結果:2018年から2021年までに経管栄養を開始した高齢GERD患者149名を対象に分析を行った結果、以下の事実が明らかになりました。
- 高い中断率とリスク因子: 対象患者の23.5%がETFIにより経管栄養を中断しており、中断した患者は有意に低BMI(17.4 kg/m2未満)である傾向が示されました。
- 病院収益への影響: 経管栄養が中断されると、包括範囲内である点滴(静脈栄養)や薬剤、検査費用が増加し、1日あたり中央値で+2,288円の「未償還医療費(病院側の損失)」が発生しました。一方で、食事提供の中止により「入院生活療養費」などの収益は1日あたり中央値で-1,179円減少し、支出増と収益減の二重の負担が確認されました。
- シミュレーションによる損失額: 高齢GERD患者10名あたり、4週間で約24万8千円の病院損失が発生すると試算されました。特に低BMI患者(約34万3千円の損失)や、半消化態流動食(Polymeric formula)を使用している患者で損失額が大きくなる傾向が見られました。
表:高齢GERD患者10名あたりの4週間における推定損失額(シミュレーション)

展望:
本研究により、ETFIの予防は患者のアウトカム向上だけでなく、病院経営の持続可能性を支える上でも重要であることが示されました。
特に、低BMI患者に対する早期の栄養アセスメントや、胃排出を促す消化態流動食(Oligomeric formula)の適切な選択といった予防的戦略を導入することで、臨床的合併症の回避と経済的損失の軽減を同時に実現できる可能性があります。
論文情報
- 掲載誌: Clinical Nutrition ESPEN
- タイトル:Economic consequences when enteral tube feeding intolerance causes unplanned discontinuation in hospitalized older patients with gastroesophageal reflux disease
- 著者: Yukikazu Kamada, Kanako Kawano, Akina Iguchi, Noriko Tominaga, Chisato Okamoto, Masatoshi Inoue, Ataru Igarashi, Masafumi Kitakaze
- DOI:https://doi.org/10.1016/j.clnesp.2025.102892