リード
「メタボリック症候群とがんとの関係に関する臨床研究」(Metabolic Syndrome is Linked to Most Cancers Incidence)が2024年10月9日、Natureの関連雑誌であるHeart & Vessels誌に掲載されました。(https://doi.org/10.1007/s00380-024-02474-7). この研究は、錦秀会・阪和記念病院の北風政史・矢田豊医師が、大阪大学産業科学研究所および医学系研究科、大阪難病財団などの研究者と遂行しました。本研究により、メタボリック症候群(いわゆるメタボ)が多くのがんの発症要因になる可能性が明らかとなりました。本研究の成果は、がんの予防戦略を考える上で貴重な根拠のひとつとなると考えられ、大きく臨床医学に貢献するものと期待されます。
背景
がんは早期発見や画期的な画像診断技術やバイオマーカーを用いた迅速な診断、また革新的な医療や外科治療の進歩によって徐々に克服されつつあります。しかしながら、依然として多くの人々が世界中でがんや心血管疾患により死亡しているため、心血管疾患やがんを引き起こす臨床的な落とし穴を見つけることが重要です。メタボリック症候群(いわゆるメタボ)が心血管疾患と大きく関連していることから、私たちはメタボリック症候群が初期段階であっても、全体的にがんの発生を促進する可能性があると考え始めました。実際、私たちの大規模な医療データベースを使用して、メタボリック症候群が膵臓がんを引き起こすことが証明されており、2023年に論文化しております。そこでJMDCより提供を受けた460万人の医療ビッグデータを用いて、メタボリック症候群と主要ながんの関連性を後ろ向き観察研究で検討しました。
結果
2005年から2020年まで、日本人の健診・レセプト・投薬データを解析し、主要ながんの発生率を求めました。この時、日本の基準またはNCEP/ATP IIIのいずれかで判断されたメタボリック症候群の有無で群分けしました。データに欠損がない270万人の被験者のうち、追跡期間中に102,930名が肺がん、200,231名が胃がん、237,420名が大腸がん、63,435名が肝臓がん、76,172名が前立腺がん、2,422名が骨髄性白血病を発症しました。日本の基準で定義されたメタボリック症候群は、肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、前立腺がん、骨髄性白血病の発生率をそれぞれ1.03から1.47のハザード比(HR)で増加させました(p < 0.005)。日本の基準によると、メタボリック症候群前段階のグループにおけるがん発生率はメタボリック症候群グループと同等でした。海外のメタボリック症候群の基準を定めているNCEP ATP IIIを使用してメタボリック症候群を定義しても、結果はほぼ同じでした。
結論
これらデータを総合的に判断すると、メタボリック症候群は多数の主要ながんと関連していると結論付けられます。
展望
本試験の結果より、メタボリック症候群は早期・軽症であってもががん全体の大きなリスクとなることから、がんの予防にはメタボリック症候群の治療と予防が重要であることが示されました。今後、がんの予防と治療のみならずその発がん機構の基礎研究に大きな影響を与えるものと期待されます。
皆様へのメッセージ
メタボリック症候群は早期・軽症であってもががん全体の大きなリスクとなります。
メタボの予防は、体重、運動、規則正しい食生活です。いま一度ご自分の生活習慣を見直してください。不安があれば一度私どもの病院をご受診ください。