麻酔科

はじめに

 阪和記念病院・阪和病院は、20226月に錦秀会の4病院が統合し、新病院として開院しました。それにともない、日本麻酔科学会が認定する麻酔専門医3名が常勤し、医療スタッフ(看護師・臨床工学士・放射線技師・薬剤師・臨床検査技師etc)とともに、患者様が安全にかつ快適に手術を受けられますように、全身管理を行っています。

麻酔を受けられる患者様へ

 手術とは、患者様の病気を治癒させる行為ではあるが、多大なストレスをもたらします。これらのストレスを制御することが麻酔科の仕事です。
 麻酔科医は、手術前に患者様の診察を行い、手術法や種々の検査データ・病歴などを検討し、最適な麻酔法を説明させて頂きます。この際、麻酔の合併症等も説明させて頂きますので、分かりにくかった事やご要望などを伺いますので、ご遠慮なくおっしゃって下さい。
 麻酔の領域は、新しい薬物や器具の開発、麻酔技術の発展により、また新しい治療法や手術法の開発により侵襲の少ない手術が可能になり、手術の適応が広くなってご高齢者や重篤な合併症を有する患者様の麻酔も可能になりました。
 応病与薬。病気を正しく理解して、適切な治療を行う。我々麻酔科医は様々な疾患、新しい手術法を認知し、常に最新で適切な薬物の投与・麻酔技術を提供することで、患者様がより安心して手術を受けられるように努めています。

全身麻酔とは

 

 麻酔の方法は、大きく分けて全身麻酔と局所麻酔があります。
 全身麻酔は、まず点滴から麻酔薬を投与して意識がなくなった状態で、筋弛緩薬(全身の筋肉の動きを抑える薬物で呼吸も止まります)を投与して、気管(口鼻から肺に空気を取り込むための管状の器官)にチューブを挿入して人工呼吸器に接続します。このチューブから揮発性麻酔薬を吸入、または点滴から麻酔薬を投与し、脳に作用して意識がなくなり、痛みをおさえ、動かない状態になります。麻酔科医は手術の間ずっと患者さんの側にいて、血圧、心拍数、呼吸の状態、体温、尿量などをチェックして、麻酔薬や輸液量を調節します。手術が終わると、麻酔薬の投与を中止し、患者様の覚醒を待ちます。意識がしっかりし、呼吸が安定している事を確認して、気管内に入っていたチューブを抜去して麻酔を終了します。麻酔科医は、患者様の血圧と呼吸が安定している事を確認して、患者様は病棟へ帰室して頂きます。

局所麻酔とは

 

 体に何らかの刺激が加わった場合、その刺激が末端の神経を通じて脊髄を経て、大脳に伝達され痛みを感じることになります。局所麻酔とは、この刺激が大脳に至るまでの神経に局所麻酔薬を注入して、刺激の伝達を遮断する事で痛みを感じさせない方法です。
局所麻酔は手術中も意識がなくなる事がありませんが、手術時間や患者様の状態により全身麻酔と併用したり、鎮静(薬物により眠った状態)する事があります。
局所麻酔には、薬物を注入する場所によって様々な鎮痛効果を得られます。

『脊髄クモ膜下麻酔(下半身麻酔・腰椎麻酔)』

 背骨の外側には脳から繋がる脊髄という太い神経があり、この脊髄は、硬膜とくも膜に包まれ脳脊髄液に満たされた空間(くも膜下腔)を枝分かれしながら、頭から腰まで続いて、全身に神経を張り巡らせ、腰から下は馬の尻尾のようになっています。脊髄クモ膜下麻酔は、腰の部分で背中から細い針をくも膜下腔まで刺入し、局所麻酔薬を注入して、脊髄レベルで感覚を麻痺させる麻酔です。局所麻酔薬を注入した部分だけが麻痺するため、臍から下の下半身の手術に適応されます。麻痺している時間は3時間程なので長時間の手術には不向きですが、感覚以外の全身状態が保たれているため、体に対する侵襲が少なく、比較的安全な麻酔といえます。また、鎮静薬という眠り薬を投与する事で手術中は眠って過ごす事も可能です。

『硬膜外麻酔』

 脊髄を包んでいる膜の外側に硬膜外腔という、脊髄を保護するためのクッションのような空間があります。この硬膜外腔に背中から少し太めの針を刺入し、その針を通じてビニール性の細い管(カテーテル)を挿入して留置します。硬膜外麻酔は、そのカテーテルから局所麻酔薬を注入して、その部分の脊髄の感覚を麻痺させる事ができます。脊髄くも膜下麻酔と違い、カテーテルから局所麻酔薬を追加投与する事で麻酔時間を延長させる事ができ、首から下の硬膜外腔のどの部分にもカテーテルを留置させることができるので、頭頚部を除くすべて手術に適応となります。また、手術前に硬膜外麻酔を施行して、手術後にカテーテルから局所麻酔薬を持続的に注入することで、手術後の疼痛を緩和する事もできます。

『神経ブロック(伝達麻酔)』

 脊髄から枝分かれした神経は、体の隅々まではり巡らせ、感覚や運動をつかさどります。神経ブロックは、手術する範囲をつかさどる神経の中枢側、比較的脊髄に近い部分で、超音波エコーで神経の走行を確認して、局所麻酔薬を注入して痛みをとる方法です。小さな手術で行われる事が多いですが、全身麻酔と併用することで、四肢やお腹の手術など大きな手術でも行われ、手術後の痛みを緩和する目的でも行われます。

よくあるご質問

麻酔がかかりにくいと言われた事がありますが、大丈夫でしょうか?
全身麻酔がかからない人はいません。麻酔薬の量や種類を選別することで、必ず全身麻酔は施行できますので安心してください。脊髄くも膜下麻酔などの局所麻酔で効果が不十分な時は、全身麻酔に移行する事が可能です。
お酒をよく飲むのですが、麻酔はかかりますか?
麻酔薬とお酒では、脳に作用する機序が違いますので、麻酔は問題なく行えます。むしろ、大量に飲酒する方は、肝臓の機能が弱っているため、麻酔薬の解毒・排出する機能が衰えているために、麻酔からの覚醒が遅延する可能性があります。
煙草を吸っていますが、大丈夫でしょうか?
肺の気管支内側にある線毛は、肺の中に溜まった老廃物を排出し、肺を清浄に保つ作用があります。喫煙はこの線毛運動が障害されるため、喫煙者の咳痰が多いのは、このためと考えられています。全身麻酔では、人工呼吸を行うために咳嗽が抑制させるために、喫煙者は手術後の肺炎や無気肺の合併症の確率があがります。喫煙の線毛運動の障害は、回復するにために禁煙から3週間以上かかるとされており、手術が決まった時点で是非禁煙してください。
麻酔が怖いのですが、安全なのでしょうか?
1990年頃の麻酔が原因の死亡事故は、1万件に1件と報告されていましたが、1995年には5万件に1件と激減しています。これは、麻酔科医の医療技術の進歩や新しい麻酔薬の開発・医療機器の発達が要因です。日本麻酔科学会は、昭和の時代からいち早く専門医制度を立ち上げて、人材育成を努めてきました。
また、1990年代に経皮的酸素飽和度モニターが開発され、麻酔科医は早期に麻酔中の生体監視モニターに応用し、劇的に事故が減少したと考えられています。経皮的酸素飽和度モニターは、パルスオキシメーターと呼ばれ最近のコロナ禍で一般家庭でも普及しましたが、我々麻酔科医は30年以上前から安全な麻酔管理を目的として使用しています。以降も麻酔を含む医療技術は進歩して、さらに安全な麻酔を提供できるようになり、麻酔科医は患者様が安心して手術を受けられるよう努めています。

追記;酸素飽和度とは
赤血球は、その細胞内にあるヘモグロビンという鉄分が肺をめぐる血管の中で酸素と結合して、全身に酸素を運搬します。酸素飽和度とは、このヘモグロビンが酸素と結合している割合の事で、体の中の酸素の量が十分にあると、酸素飽和度が上昇し、逆に酸素の量が少なくなると、酸素飽和度が低下します。パルスオキシメーターは、患者様の指先にクリップを装着して酸素飽和度を測定する機器で、麻酔中にモニターする事で患者様の酸素の量を知ることができ、より安全な麻酔ができます。

医師紹介

  • 平松 謙二 先生

    麻酔科 主任部長平松 謙二ひらまつ けんじ

    資格など

    麻酔科標榜医、麻酔科専門医、麻酔科指導医

  • 麻酔科 部長津田 和信つだ かずのぶ

    資格など

    麻酔科標榜医、麻酔科専門医、麻酔科指導医

  • 植田 一吉 先生

    HCU(高度治療室)部長植田 一吉うえた かずよし

    資格など

    麻酔科標榜医、麻酔科専門医、麻酔科指導医、集中治療専門医